洋服のデザイナーが思案投げ首して、流行にあうような絵を描いて、その服をつくっていくように、
私たちは薬の分子のかたちを目的にあうようにデザインすることができます。
DHMEQはこのような分子デザインによって生まれました。
エポキシキノマイシンという弱い抗生物質がありました。あまり弱いので薬にはなりませんでした。
10年前、この分子のかたちが既存のNF-κB阻害剤に似ていることに気がつきました。エポキシキノマイシンそのものは活性がなかったのですがNF-κBを阻害するようにデザインしてつくってみたところ、その新しい薬剤DHMEQはみごとにNF-κBを阻害し、毒性もありませんでした。これがDHMEQ発見のいきさつです。
DHMEQは比較的少ない工程で合成することができます。 これは将来、薬として開発するのに大事なことです。ただし、課題も残っています。
合成でまず出来るのは「ラセミ体」というものです。
これは、ひとつの分子とそれを鏡に映した構造の分子が1:1で混ざっているものです。
このように鏡にうつしてちがう立体構造になる化学物質を「光学活性体」といい、それぞれを(+)体、(-)体といいます。
左手を(+)体とすると、右手が(-)体になります。
薬として開発するには、どちらかにしなくてはなりません。DHMEQの場合、
(-)-DHMEQのほうが、(+)-DHMEQより10倍活性が強いので(-)体を薬にする予定です。
(-)体だけを安く早くつくる方法は今後の課題になっています。 ただ慶應義塾大学薬学部や株式会社シグナル・クリエーションの協力を得て、この問題も解決されつつあります。